新声学園祭の影
2026年08月02日
文化祭の三日目、私は大学の放送室で一人残ることになった。
担当は音声録音。「演劇班のセリフと効果音を取りたい」と先生に言われ、朝からマイクと録音機をセットアップしていたのだ。
実は私の前にこの部屋の担当者がいた。三年生の佐伯という女だった。彼女は三日目に入っても「最終チェック」をすると言い残し、昼過ぎに一時的に姿を消して以来戻ってきていない。
「最後にBGMのテストだけやって」
そう言って録音機のアラームをセットし、「もし誰も来なかったら、そのレコードが完成するまで待ってて」
私は頷いた。彼女が去った後、静かな部屋。マイクに向かってため息をつくと、モニターに波形が表示される。私の声の振動が見事に可視化されている。
一時間後、佐伯は戻らなかった。
二時間後、録音機のアラームが鳴って目覚めた時、私は震えた。
レコードが完成していた。
ただし、それは私が拾ったはずのセリフでも効果音でもない。
「……はぁ……はぁ」
呼吸だけ。しかし私のものではない。
モニターに表示された波形を見ると、まるで誰かが近づいてきた時の鼓動のように、小さくゆっくり大きくなっている。そして最後の十秒間が不自然に平坦なのだ。
ただの静寂、あるいは電源OFF。
私はその録音を再生したが、最後の部分は何も聞こえなかった。しかし波形を見る限り、マイクの前で何者かが立ち尽くしていただけだった。
そしてその時の時刻——佐伯が消えた正確な直後を捉えていたのだ。
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その夜、私はまた放送室に行った。
録音機を点け直し、マイクに向かって「佐伯さん?」と声をかけた。
モニターには私の声が映る。しかし最後の波形を見ると、私の声が終わった後の静寂の部分に、微かに別の振動が記録されているのがわかったのだ。
誰かが私の背後で息をしていた。
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